“アトスでは中世このかた、たぶん魂の質は別として、何ひとつ変っていない。編髪と髭を垂らした六千人の修道士が、自分らの信仰篤い保護者たる何世紀も昔におそらく滅んでしまったトレビゾンド族の王侯たちの魂の救済のために、今日なお祈りをつづけているのですよ。人が想像するほど忘却が速やかでもなく全面的でもない、と考えるのはじつに心安まるものです。なにしろ、十字軍の時代の王朝が幾人かの老僧たちの祈りの中に生き残っている場処がこの世にはあるのですからねえ。”
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マルグリット・ユルスナール 「東方綺譚」
「マルコの微笑」
多田智満子訳 白水社 1980年