“──おまえは死んだと思っていたよ。
──先生が生きておられますのに、どうしてわたしが死ねましょう。
と玲はうやうやしくこたえ、師に手をかして舟にのせた。翡翠の天井が水を映し、そのために玲はあたかも洞窟の内を漕いでいるかに見えた。水に沈んだ廷臣たちの三つ編みの髪が蛇のようにたゆたい、皇帝の蒼白い顔は蓮の花のように漂った。
──ごらん、弟子よ、と憂鬱そうに汪佛が言った。この人たちは、気の毒に、死んでしまうよ、まだ死んでいなければな。皇帝を溺れさすほどに海に水があろうとは思ってもみなかった。どうしたものかな?
──師よ、御懸念には及びませぬ、と弟子は呟いた。この人たちはすぐに乾いてしまい、自分の袖が濡れたことなど思い出しもしますまい。帝だけが、心にいささか海の苦みをとどめるでしょうが。この人々は画のなかで死ぬようにはできていないのです。”
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マルグリット・ユルスナール 「東方綺譚」
「老絵師の行方」
多田智満子訳 白水社 1980年