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読書記録
Try "random".

劇場での大喝采は、しばしばひとつの母音にまとまってゆく。おなじことは、劇場でのスキャンダルについてもいいうる。それを表明するための手段自体が、母音に同調しているのだ。拍手には感嘆のA(アー)があらわされ、他方、口笛には嫌悪のI(イー)がふくまれている。人間のあいだの秩序がくずれ血を流すにいたるとき、それは音声の変化となって表出される─ちょうど水が沸騰するときのように。相談で事をきめる集会の場では、どんな整然たる演説、また思慮ぶかい語りかけもしずめようのない声がわきあがってくる。それとともに、往来や広場では、一夜のうちに生まれて朝にはもう人口に膾炙している歌やスローガンに気づくことがあろう。そのうちのひとつ──


Ah ! ça ira, ça ira, ça ira !
Les aristocrates à la lanterne.

(ああ、いざ、いざ、いざ
貴族どもを街灯につるせ)


ここでふたつの母音の色あい、その対比は、ささやく子音とふきならす子音とに強調されて、時は至れりと、はっきり告げている。そのようなひびきのめざめるところ、自由な語は黙するほかない。ちょうどコロセウムの血なまぐさい闘技の際、神像に覆いをしたように。

エルンスト・ユンガー 「言葉の秘密」

「母音頌」

菅谷規矩雄訳 法政大学出版局 1968年