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読書記録
Try "random".

以下の省察を母音へのささげものとしよう。


これらのひびきを子音とくらべてみると、まずそこに宿っている精妙にして移ろいやすい生命がきわだってくる。
その意味では、母音は言語のもともとの肉質をなしているもので、強固な骨格は子音に具体化されているのだ。ゆえにまた言語の変遷、その生成、推移、衰退などに、母音はまずもっとも動かされやすい。それは短命の原形質に似て、いちはやく代謝し言語の本体から消えおちるが、子音のかたい甲皮はといえば、しばしば数百年にわたり、人種、民族、諸言語の多彩な交代にも耐えて、その脈絡を保持するのである。
子音はつまり、時による浸食という観点からすれば、より大きな恒常性と信頼度においてきわだつものである。セム系諸語では子音は語義の基本を担うものとされ、母音はただそれに影響をくわえるにとどまる。それに応じて、文字のうえでも、母音はしばしば副次的の記号であらわされるのだ。うたがいもなくこの事実は、かの生まれながらの律法の民の精神に深いかかわりがある─犯すべからざる戒律を伝え、石に刻まれた古辞に依拠し、女性には隷属的な役割を与え、といったところにあきらかな、あの精神である。
この第三の特徴をあげたのは、ヤーコプ・グリムの美しい文をおもってのことである─『あきらかにすべての母音には女性の、すべての子音には男性の、基盤がおかれてしかるべきである。』

エルンスト・ユンガー 「言葉の秘密」

「母音頌」

菅谷規矩雄訳 法政大学出版局 1968年